鳥の行動コンサルタントであるパム・クラークさんの睡眠に関する情報です。こちらの記事が止まり木についてじっくり考えてみる機会になれば幸いです。(WY事務局)
「鳥には毎晩、連続10~12時間の睡眠が必要です」という話をよく耳にしませんか?ネット上にも同じように書いているサイトが山のようにあります。
果たしてこれは本当でしょうか。鳥は多様性に富み、種類によって大きく異なる生き物です。睡眠について一括りにして語るのはいささか乱暴な気がします。それに個人的に、鳥について「一般化」して語ることにも疑問がありますし、日照時間と睡眠時間は分けて考えるべきでしょう。私は大型の鳥と30年近く一緒に暮らしていますが、連続して10~12時間寝させたことはありません。それでも病気になったこともないし、問題行動も起こしたことがありません。
連続10~12時間睡眠が必要とされる理由は、野生のインコ・オウム類の多くが赤道付近に生息していて、その地域は昼と夜がちょうど半分の12時間ずつになること、そして、日が落ちるとともに巣に戻ることが観察されているから、と言われています。いまいち腑に落ちません。
世界地図を見ると、ほとんどのインコ・オウム類は赤道から少し外れたところで暮らしています。たとえば、オキナインコは赤道から45°下に位置するアルゼンチンが生息地で、赤道と南極の中間点です。(Forshaw 1977, 442)
さらに、自然界の夜は光も音も届かない世界ではありません。月の光に満たされる夜もあれば、夜行性の動物がゴソゴソと動き回る時間もあります。暗闇の中、睡眠を妨げられることなく心穏やかに眠れる夜のほうが珍しいはずです。
睡眠時間が短いと「不機嫌になって怒りやすい(噛みつきやすい)」という意見もあります。(Womach, 2012) 人間は睡眠不足になると不機嫌になる、だから鳥もそうだ、という考えのようですが、そもそも人間と鳥は全く異なる生物です。鳥が不機嫌で言うことを聞いてくれないというのは、疲れているからというよりも、トレーニングされていない可能性のほうが高いと考えます。
化学的根拠に基づく鳥の睡眠
睡眠に関して科学的根拠のある情報はないかと調べてみると、面白いものを見つけました。
- 他の動物と比べて、鳥の動睡眠(レム睡眠)の時間は短く、敵からの攻撃に備えるため頻繁に目を覚ます鳥種もいる。(Lovette 2016, 254)
- 鳥は寝ているときも、右脳左脳のいずれかが起きている(イルカのような海洋哺乳類の中にも同じ機能を持つものがいる)。右目は左脳、左目は右脳に繋がっており、寝ている間も片目で敵が来ないか見張りながら、脳を交代交代に休ませている。(Lovette 2016, 254)
鳥は進化の中で、身を守るためにこの睡眠方法を獲得したわけですが、途切れなく真っ暗な中で眠るのが本来の姿という意見とは相反します。
また、渡り鳥は飛びながら寝ることが知られています。シロハラアマツバメは200日間連続して飛ぶことができるのですが、これはつまり、睡眠を含む生命維持に必要な処理を飛びながら行うことを意味します。渡りや繁殖期間中、睡眠時間が制限されることは不思議なことではありません。(Rattenborg et al, 2016)
巣に戻る vs 眠る
ケンブリッジ鳥類百科事典には、「巣に入ること」と「眠ること」は別の行動であると記載されていますー鳥は必ず巣に入るし、睡眠もとる。この2つは同じにも取れるが、正確には意味が違う。巣に入ったからといって直ぐに眠るわけではなく、羽繕いしたり、体を休めたり、仲間がいれば触れ合ったりして過ごす時間があります。
- 巣に出入りする時間は日の出入りにほぼ対応しているが、眠っている時間はこれよりも短いと考えられる。(Brooke and Birkhead 1991, 145)
- 鳥種や季節によってかなりの差はあるが、一日の睡眠時間が8時間程度の鳥が多い。 (Brooke and Birkhead 1991, 148)
日照時間以外は巣で過ごすとしても、その間ずっと眠っているわけではなさそうです。
長時間睡眠がヨウムの毛引き原因に?
ほかにも興味深い研究結果を見つけました。数年前にイギリスで行われたヨウムと大型のオウムに対する研究で、ヨウムの毛引き原因として次の2点が挙げられています。
1) 長く飼われているほど毛引きしやすい
2) 睡眠時間が長くなるほど毛引きしやすい
暗く静かな場所で継続して睡眠する条件において、一日12時間以上睡眠をとるヨウムの毛引き率は、8時間未満のヨウムと比べて7倍増加する。(Jayson et al, 2014, 250-257)
またレム睡眠とノンレム睡眠に関する情報もあります。
- 人も鳥も睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返すが、鳥の1回あたりのレム睡眠の長さは10秒程度で、それを一日に何百回も繰り返している。(Lesku and Rattenborg 2014)
続きはプレミアム記事でお楽しみください。
Pamela Clark, 2018.5.21執筆
翻訳:小林由香
パム・クラークさんより当該記事の翻訳及び掲載許可を得て掲載しております。
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References
- Forshaw, Joseph. Parrots of the World. Neptune: T.F.H Publications, 1977.
- “How Much Sleep Does My Parrot Need.” Fixing Your Parrot’s Problems. 15 Sept 2012. http://www.birdtricks.com/blog/how-much-sleep-does-my-parrot-need
- Lovette, Irby and John Fitzpatrick. The Cornell Lab of Ornithology Handbook of Bird Biology. West Sussex: John Wiley & Sons, Ltd., 2016.
- Rattenborg et al. Evidence that Birds Sleep in Mid-flight.” Nature Communications, 3 Aug 2016. < https://www.nature.com/articles/ncomms12468>
- Brooke, Michael and Tim Birkhead. The Cambridge Encyclopedia of Ornithology. New York: Cambridge University Press, 1991.
- Jayson, Stephanie, David Williams, and James L.N. Wood. “Prevalence and Risk Factors of Feather Plucking in African Grey Parrots (Psittacus erithacus erithacus and Psittacus erithacus timneh) and Cockatoos (Cacatua spp.)” Journal of Exotic Pet Medicine 23 (2014), pp 250-257. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1557506314001062
- Gordon, Rose. “The Science of Parrot Sleep.” https://www.petcha.com/the-science-of-parrot-sleep
- Lesku, John and Niels Rattenborg. “Avian Sleep.” Current Biology. <https://doi.org/10.1016/j.cub.2013.10.005>
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