1時間目 鳥の脳は単純じゃない!
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かつて、「鳥頭」=「頭が悪い」と認識されている時代がありました。鳥は本能の赴くままに生きていて、思考や予測に基づいて行動することはないと考えられていたのです。この考え方に拍車をかけたのが、100年以上前のエディンガーの研究に基づく、「脳の大統一理論」です。この理論では、脳が進化した頂点に人類が置かれていました。動物の脳は、魚類から両生類、爬虫類、鳥類、そして哺乳類へと進化し、霊長類と人類がそのトップに君臨するというものです。
1. 脳の進化をたどる
「脳の大統一理論」では、知能が、低いレベルから高いレベルに並べられていました。高い知能をもつ生き物の脳には、その理論でいう「低知能の生き物」が持つ原始的な構造も含まれており、その構造の組織も類似しているとされました。たとえば解剖学的には、鳥類、哺乳類、人類の脊椎の構造は魚類とほぼ同じであり、脳の基本的な構造も類似している――それぞれの脳の胚の発達が似ていることから、発生学(胚の発達を研究する学問)によってこの理論が支持されました。
鳥類の脳が作られるとき、まず、外胚葉という空洞のチューブのような組織ができます。これは哺乳類も爬虫類も同じです。そしてこのチューブから、前脳、中脳、後脳になる組織が作られます。鳥類の中脳と後脳は、哺乳類と全く同じ構造で、運動核や感覚核、呼吸や心拍、血圧を担う網様体がある場所です。
2. 脳の構成
一方、鳥類の前脳は、哺乳類とは違う進化の道を進みました。前脳は、終脳と間脳から成り立っています。外側にあるのが終脳で、その表面がいわゆる大脳皮質です。大脳皮質は石灰質の薄い膜が8層重なったもので、思考を司る場所です。体の運動を制御したり、何かを感じたり、未来を考えたりするのが、大脳皮質の役割です。
大脳皮質の一番外側にあるのが、複雑な神経細胞と回路を持つ大脳新皮質です。人類の大脳新皮質の表面にはたくさんのシワがあり、入り組んだ見た目をしています。一方、鳥類の脳の表面は、シワひとつなく滑らかであるため、大脳新皮質を持たない=知能が低い、と考えられていたのです。シワがある分、脳の表面積が大きい人類こそ、優れた頭脳の持ち主であるとされました。
エディンガーは、終脳はより複雑に、より大きくなりながら進化し、その頂点が人類の大脳であると提唱しました。最初に本能的行動を司る脳(旧皮質)があり、進化とともに、旧皮質の上に学習行動や知的行動を司る新しい脳(新皮質)ができた。つまり、新皮質をもたない鳥類は、学習や知的な行動ができない。これがエディンガーの理論でした。
3. 鳥の脳に対する研究
1970年代になり、鳥類を含む他の動物の脳に関する研究が進みました。そして、哺乳類と鳥類の脳神経経路が似ているだけでなく、さらに脳の深い部分にある機能も似ていることが分かりました。たとえば、脳の機能研究を行った結果、本能的な行動だけを司ると考えられてきた鳥類の旧皮質にある前頭葉は、哺乳類の大脳新皮質と同じ学習機能を持っていることが明らかになったのです。その後も、鳥類が思考をもって行動していることを示す事実が次々と見つかりました。
その後、脳の機能に関する新情報を反映すべく、Avian Brain Nomenclature Consortium(鳥脳命名法コンソーシアム)が設立され、鳥類の脳の各部位に、新たな名称を設ける活動が行われました。哺乳類の脳との相同性(形状や機能が一致しなくても、構造的に共通性が見られること)をベースに命名することが基本とされました。
4. カラスは知っている
現在、人間に置き換えると、鳥類の大脳の約75%は大脳皮質が占めており、哺乳類と同じく感覚野と運動野を処理していることが分かっています。また、鳥類の認知能力に関する研究も進められています。ハトを研究したデータによると、ハトは725もの視野パターンを持っていて、人工物と自然物を目で識別でき、さらに、シンボルを使ったコミュニケーションもできることが分かりました。
また、カラスには驚くべき能力があります。道具を使って物を取り出したり、複雑な仕組みを理解したり、他のカラスにその方法を教えることができることが分かりました。ある研究で、マスクをつけた人間がカラスを捕まえて放すと、その後、仲間のカラスから嫌がらせをうけました。つまり、放たれたカラスが仲間に情報を伝達していたと考えられます。わたしたちが一緒に暮らしているオウムやインコも、人を識別したり、道具を作って使ったり、言葉も学習します。ヨウムは場面にあった文章を使って話すこともできます。鳥類はほんとうに素晴らしい頭脳の持ち主なのです。「鳥脳」=「賢い」が21世紀の常識です!
(2015/3/11 Susan Orosz, PhD, DVM, Dipl ABVP (Avian), Dipl ECZM (Avian) 寄稿記事)
翻訳:小林由香
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