クリッピングについて考える(1)鳥類、飛翔、人類 ― Part 1

パム・クラーク著


「飼い鳥」と「飛ぶこと」に関する議論は何十年も前から行われていますが、偏見や情報不足が原因で議論は進まず、鳥たちの生活の質を大きく改善するに至っていません。家の中で自由に飛べるようにすべきか否かの選択は、いまだに他人の意見や怖いという感情で決められることが多いように思います。最近ではクリッピングしない飼い主さんも増えていますが、飛ぶことに対する情報や理解のなさもまだ根強く残っています。まずは次の事実を認識しましょう。1)飛ぶことは鳥が生まれながらに持つ権利である。2)鳥を自由に屋内で飛ばすことができない家庭環境もある。

この相反する2つの事実から学ぶことや議論することは多くあります。飛ぶことは肉体的、精神的にも非常に複雑な行動であるため、テーマを分けて書いていきます。今回はそのプロローグとして、「鳥と飛翔」というテーマでお届けします。飼い鳥の話をする前に、まず本質的な事柄について学びましょう。

鳥類と飛翔

現在、地球上で羽毛をもつ生き物は鳥類だけです。その多くは羽を使って移動しながら進化してきました。鳥類にとって羽と飛翔は極めて重要、かつ最も大切なものです。

アメリカの鳥類学者レスター・L・ショートは、その著書”The Lives of Birds”の中でこう書いています。「…… 鳥類の体の構造すべて、そして生理学的側面のほとんどは飛ぶために形成されている」

鳥とは飛翔の必要性とその能力によって支配されている生き物であり、それは感情面にも影響を及ぼしていると考えられます。鳥は飛ぶものであり、それを無視して鳥を飼うことは不当な扱いをしていると言えるのです。

羽と機能

羽には種類があります。体の表面を覆う滑らかな羽、その下にある柔らかで断熱効果のある綿羽、そして飛ぶために必要な長くしっかりとした風切り羽。羽の枚数は平均的なサイズの鳥で数千枚あり、羽管と呼ばれる管を通って伸びます。風切り羽の軸はスポンジ状で、軽く柔軟性があります。

羽を一枚見てみると、中心に軸があるのが分かります。この軸は「羽軸」と呼ばれ、羽軸の両側からはたくさんの「羽枝」が斜め上方向に生えています。羽枝は束になっていますが、指で挟むと簡単に一枚ずつ広げることができ、離すと元に戻ります。鳥は嘴でこの束を解して羽繕いをしています。さらにこの羽枝一枚からは、何百枚もの「小羽枝」が生えています。羽一枚をとってみても、そのつくりは実に複雑です。

羽には多くの利点があります。軽く、摩耗したり抜けたりしても定期的に生え換わり、一枚一枚がそれぞれの筋肉に繋がっているため、可動性も優れています(Poole, R. 1983)。 鳥の中には、年間何千キロもの距離を移動するもの、時速160キロの速さで飛ぶことができるもの、ホバリングして飛びながらバックできるもの、何日間も休むことなく飛び続けられるものもいますが、これもすべて、羽があるからできることなのです。

体の仕組み

飛ぶために鳥類は骨も軽量化しました。多くの鳥の頭蓋骨は紙のように薄く、また骨の中は空洞です。骨の中に空気を取り込むことで、さらに浮力を得ることができるからです。翼開長(翼を広げたときの幅)が約2メートルもあるグンカンドリも、骨全体の重量は113グラムほどしかなく、羽全体の重量よりも軽いのです(Poole, R. 1983)。

内臓も飛ぶために最適化されています。鳥類の心臓は体の比率からして大きく、心室も人間と同じく4つに分かれています。これは血液中の不純物をいち早く取り除くためです。

鳥類の呼吸器には「気嚢」と呼ばれる臓器があり、肺から分岐して体中に配置されています。足のあたりまで気嚢が存在している鳥種もいます。1758年にイギリスの外科医が、気管が閉塞した鳥の翼や足の骨に外から小さな穴をあけることで、呼吸を維持させたという事実もあります(Page, J. 1989)。

また骨を融合させることでさらに軽量化しています。哺乳類でいう両側の鎖骨とその間の骨は融合し、叉骨(さこつ)と呼ばれる一つの骨を形成しています。高速X線画像を使ってムクドリの飛翔を撮影した研究によると、翼を動かすたびにこの叉骨がバネのように伸びたり縮んだりしていることが分かりました。この動きにより、呼吸器に空気を送り込み、飛翔中の呼吸をサポートしていると考えられます(Page, J.1989)。

飛翔と渡り

渡りには飛翔能力が欠かせません。気候の変化が少ない熱帯地方で暮らす鳥たちも、雨季や干ばつの時期には何百キロもの距離を移動します。シギやチドリの仲間は、南アメリカから北アメリカ東海岸ニュージャージーまでの距離を10日間連続、時間にして240時間をノンストップで飛び続ける驚異的な渡りをします。そのモチベーションは餌場探しです。ハシボソミズナキドリの渡りを調べた研究によると、一年間に移動する距離はおよそ2万9千キロにも上ることが分かりました。研究者の一人はこう述べています。「地に足を付けて暮らすほかない人間からみると驚愕の行動だ。人に置き換えれば、自力でジャンプして月に到達するようなもの。この奇跡のような行動を小さな鳥がやってのけている」

続きはプレミアム記事でお楽しみください。

Pamela Clark, 2019.3.13執筆
翻訳:小林由香

Pam Clark氏より当該記事の翻訳及び掲載許可を得て掲載しております。
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(参考文献)
Short, Lester. 1993. The Lives of Birds. New York, NY. Henry Holt & Co.
Poole, Robert M. ed. The Wonder of Birds. Washington D.C: National Geographical Society. 1983.
The Gift of Birds. 1979. National Wildlife Federation.
Page, Jake and Morton, Eugene S.  1989. Lords of the Air: The Smithsonian Book of Birds. New York: Smithsonian Institution.
Weidendaul, Scott. 1999. Living on the Wind: Across the Hemisphere with Migratory Birds. New York: North Point Press. 
Perrins, Christopher. 1976. Birds: Their Life, Their Ways, Their World. New York: Harry N. Abrams, Inc.

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コメント

  • コメント ( 2 )

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  1. こんにちは。
    次のステップへの良い定義と感じます。
    良い加減、カビの生えた鳥飼の常識を変えていただきたいです。

    鳥の飛ぶ能力は「権利」ではありません。
    本能です。
    遺伝子レベルでの行動です。
    屋内では飛べない環境もある?
    飛べる環境がある屋内を見てみたいものです。
    長距離を飛んで移動する生態の鳥もいれば、
    ジャングルで障害物を避けながら飛ぶ鳥もいます。
    ひとくくりにはできません。

    クリッピングをしている人のアンケートを希望します。
    なぜ切るのか?
    それは人の都合なのか?
    鳥のためになっているのか?

    重要な機能を奪うのに納得のいく理由があるのか。
    とても気になります。

    人それぞれ意見はありますので、そろそろ真剣に話し合ってもよいと思っています。

    鳥のためなのか?人のためなのか?

  2. べべべさん、コメントありがとうございます。

    先日開催されたプレミアム会員様限定の鳥寿会議では9割以上の飼い主さんが「クリッピングしない」という回答でした。海外の情報を集める中で、クリッピングされている方は「怪我の防止」を理由としてあげていますし、獣医さんの中にもその理由からクリッピングを勧める人もいるようですね。お迎えした時にクリッピングされているケースも多いようです。

    賛否両論あるテーマです。WING YOUは、「飼い鳥さんと飼い主さんにとってのベスト」を考えるきっかけになってくれることを願って今回このパムさんの記事をシェアさせて頂きました。

    皆さんのご意見を是非コメントから教えてください。

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